【取材記事】やすもと醤油、バズりの裏側にあった老舗の製品力の強さとデジタル化のハナシ

やすもと醤油のマーケティング

 2020年8月26日、島根にある老舗の醤油メーカー「やすもと醤油」にとって、歴史的な事件が起きました。

 ツイッターで40人程度のフォロワーに留まっていた同社のアカウントが、ある投稿をきっかけにバズったのです。
 バズりをきっかけに、9月上旬時点でフォロワー数は実に9万を越えています。

 そして同社のネットショップのすべての商品には「SOLD OUT」の文字・・・。

 単に「バズって売れただけ」にも見えるこの現象。

 しかし、中を覗いてみると色々と気になる点が・・・。

やすもと醤油の燻製シリーズ

何だか素敵なパッケージデザイン・・・。

1885年創業という老舗・・・。

 モットーには「面白い調味料」の文字・・・。

 バズり以外にも何だかたくさんの魅力が詰まってそうだと思い、実際に取材させて頂きました。

 取材を通して、やすもと醤油が少ない社員数ながらも築き上げてきた製品力の強さと、デジタルを導入するに至った背景が見えてきました。

 “バズり”の裏側を、ぜひご覧ください。

バズった「やすもと醤油」のアカウントって?

やすもと醤油のツイッターアカウント

 同社は2020年6月12日にツイッターアカウントを開設。

 最初はツイッターに不慣れで、画像をうまく投稿することが出来ませんでした。

 そんなツイッター初心者だったやすもと醤油さん。
 バズったのは、この投稿でした。

やすもと醤油がバズった投稿

 40人という、決して多いとは言えないフォロワー数に対する「メッチャバズってるじゃん!」というスタッフの皆さんのコメント。
 このほのぼのした雰囲気に多くのユーザーが引きつけられ、これをきかっけに今では9万以上のフォロワーを抱えるまでになりました。(2020年9月現在)

 そんなツイッターで話題のやすもと醤油さん、いったいどんな会社なのでしょうか。

やすもと醤油ってどんな会社?

 まずは歴史から見てみましょう。

明治18年大政奉還で失職した安本家六代目当主安本斉昭が創業。
昭和25年株式会社化。
昭和55年当時では珍しかった国産丸大豆100%のしょうゆを発売。
平成13年情報テレビ番組「ためして○○○○」で紹介される。
平成20年現社長が就任。モットーを「安心・安全・美味しいの提供」「食卓を楽しくする面白い調味料開発」とする。
平成26年液体燻製技術を開発し、以降、燻製醤油や燻製ドレッシングを販売していく。
やすもと醤油のサイトより作成

 創業100年以上と歴史はあるものの、社員数は9名(うち正社員4名、パート5名)という町の小さな老舗メーカーさんです。

 しかし、バズり以前からテレビで取り上げられていたり、冒頭で触れた商品の魅力的なパッケージデザイン、モットーにある「面白い」の文字など、たくさん気になる部分が・・・。

 では、インタビューをご覧ください。

インタビュー

── まず、バズっての率直なご感想を教えてください。

 一番に浮かぶのは、フォロワー様に「ありがとうございます。」ということです。

 ツイッターを始めた当初はこんなにフォロワー数が増えることは想定していませんでした。そもそも、ツイッターでフォロワー様が増えることが売り上げに繋がるのかという疑問がありました。
 でも蓋を開けてみると、ツイッターをきっかけに個人の方や小売店様から注文が増えていまして、ツイッターが売り上げに影響するんだということを実感しました。

── バズって以降、会社の雰囲気に変化はありましたか?

 バズってからずっと忙しいのでみんなせかせかしている状況です。まだみんなでゆっくり振り返る時間もないですね。

 ツイッターはある程度は落ち着いてきた感じはありますが、会社内はまだ落ち着いてないです。

── ツイッターを始めたきっかけを教えてください。

 コロナの影響で売り上げが下がったので、withコロナの中でどうするか社内会議をした結果、オンライン関連を強化していくことになりました。
 もともとホームページはあったので、まずはそれを刷新することを考えました。

 リニューアル前のホームページにも商品を載せてはいましたが、買い物かごの機能はなく、お問い合わせフォームから商品名を入力して注文して頂くという使いにくい形でした。自分たちから見ても、買い物するには使いにくいなと感じていたんです。

 ただ、サイトのリニューアルはお金もかかるので、そのままでも仕方がないかなと思っていました。しかし、コロナを受けてオンラインを強化しようという事で、ネットショップを開設することになりました。

ツイッターを始めたのは、オンライン強化の一環という形でした。

── オンラインショップを作ることを決めた時期はいつ頃だったんでしょうか。

 たしか5月ごろに決めて、6月に開設しました。

── かなり突貫でしたね。コロナ流行直後はやっぱり大変でしたか?

 (スーパーなどの)小売店様に卸している部分はコロナ後でもあまり下がらなかったのですが、外食店様に卸している部分がガクッと下がったので、全体で言うと3割ぐらいは下がっているイメージでした。

 それが続くと会社が立ち行かなくなるかなという状況でしたね。

── バズって以降、売り上げはどう変化しましたか?

 まだバズってひと月もたっていないので(本取材はバズりの15日後)具体的な比較は出来ませんが、2週間で通常の2~3カ月分は出ているかと思います。

── そもそもツイッターの担当になられたきっかけは何だったんでしょうか。

 私が業務の都合上、隙間時間でやりやすいだろうということで、「やってくれない?」ということだったので、「空き時間でやるならいいですよ。」ということで引き受けました。

 パソコンで書類を作る前にちょっとやっていこうという感じでしたね。

── 何気なく決まった感じだったんですね。 少人数の会社ということで中の雰囲気が気になるんですが、御社の社風を教えて頂けますか?

 社風・・・これまであまり考えたことないですが、基本的にみんな仲がいいですね。作業中でも話しながらといった感じです。ただ、会議などではバチバチやったりもします(笑)

── ユニークな商品を出されていますが、御社の商品へのこだわりを教えてください

 サイトにもモットーとして書いているんですが、商品がおいしいのは前提として「面白い調味料」を作ることにはこだわっていますね。

── やすもと醤油の中での「面白い」とはどういうことでしょうか。

 「面白い」というのは色んな側面がありますが、最終的には家庭に持って帰って頂いて、食卓で楽しいと思ってもらえる感じですかね。
 「味が他と違っておもしろいね。」とか「パッケージがおしゃれ。」とか「奇抜だね。」とか思ってらえたらという感じです。

── パッケージのお話が出てきましたが、バズっただけで終わらずフォロワーの皆さんが購入にまで至ったのは、デザインの要素も大きいのではと思っているのですが。
 ボトルの形を見ても、ドレッシングでは通常、寸胴型のものだったり、オシャレなものだと細長くて三角形だったりと大体決まった形が多いようです。しかし、御社のような形のドレッシングボトルはあまりないですよね。

 そうですね。ボトルの形には実は結構こだわっていまして。なかなかここには気づいてもらえないんですが、この形で出している商品はほとんど他にないみたいなんです。

 この形にした理由はいくつかあるんですが、大きかったのはスーパーさんの棚にある時に目立つようにということですね。

── パッケージのコピーも目を引きますが、自社で考えられたんですか?

 はい。コピー自体には賛否両論あるんですが・・・(苦笑)。
 基本がみんなで何でも考えるので、コピーも社内で話していて。最初の発案は、社長の息子のお嫁さんだったと思います。

 一定の人に刺さるコピーを作りたいというのがありました。

 ナッツドレッシングについては、サラダがあまり得意じゃない男性に、このドレッシングをかけることでお酒を飲みながらサラダをおつまみにして頂けるように、というのがコンセプトでしたね。

 そこを考えると、男性がスーパーにはなかなか来ないと思ったんです。買いに来られるのは奥様かなと思いまして、そこに向けたコピーにしました。

── ターゲットや顧客との接点をかなり意識して作られたんですね。

 まさにそうです。そこを意識して作りました。

── パッケージデザインもすごく印象的ですが、どうやって作られたんですか?

 商品によって違いますが、最初に出した「くんせいしょうゆ」はデザインを勉強していた社長の娘さん(今は結婚されて会社にはおられない)と、その知人のデザイナーさんが協力して制作しました。

 それをもとにナッツドレッシング、玉ねぎドレッシングのデザインは作りました。

 イタリアン焼肉のたれとお米ドレッシングのパッケージデザインは、どちらも社長の息子のお嫁さんが作りました。
 お嫁さんはもともとデザインは専門ではなかったんですが、“センスがいい”ということで一任されてますね。

── え、「イタリアン」と「お米」はお嫁さんが作られたんですか!?
 お話を伺っていると、全体として役割分担がうまく噛み合っていますよね。

 そうですね。各自メインの仕事がありつつ、色々やる感じです。

── 力を入れられている5つの商品の人気ランキングを教えてください。

 「くんせいナッツ」が圧倒的な1位ですね。あとは時期などによっても違いますが、「玉ねぎ」と「お米」が同率2位、「くんせいしょうゆ」と「イタリアン焼肉のたれ」が同じくらいという感じです。

── 5つの商品は段階的に発売されたんでしょうか。

 最初は「くんせいしょうゆ」をスーパー向けの展示会に出品しました。「くんせいしょうゆ」の反応が良かったので、他の商品を作ることになりました。

── 最初の「くんせいしょうゆ」の商品開発期間はどのくらいだったんですか?

 まだ私が入社する前のことなんですが、構想から発売までに1年くらいかかったようですね。量産化したのは更に半年後くらいです。

── お話全体を通して、これまで色々な準備をされていたものが今回のバズりをきっかけに繋がった印象がありますね。

準備が整っていたので助かった部分はあります(笑)

── 今回、コロナを受けて始めたツイッターとオンラインショップが見事に機能しました。今後、デジタル分野での展開は何か検討されていますか?

 製造量が追いついていないので、とりあえずは現在の取り組みを継続していく形です。

 製造量が増えて余裕が出来てきたら、もしかすると更にオンラインを強化するかもしれませんね。

 ただ、今の勢いは一時的な部分があると思いますので、生産ラインを増やすのは怖いというのはあります。その辺は慎重に検討していきたいですね。

── 最後に、コロナの影響もあって困っているメーカーさんはたくさんあると思いますが、何かお伝えしたいことはありますか。

 お伝えしたいこと・・・。偉いそうなことは言えないですが・・・(苦笑)。ただ、私たちもそうでしたが、SNSをしてみたいけどしていないという会社は多いと思うんです。
 今回のバズりは宝くじに当たったようなものだと思っていて、宝くじを1枚買っておいてよかったなという感じです。

 なので、今回のことを通して、SNSを出来るならやってみていいんじゃないかなと思いましたね。

 私たちの会社もSNSをやっている人がいなかったのでSNSに対して敷居が高かったんです。
 でも、社内に若くてSNSをやられている方がいれば、その人に任せてやってみていいんじゃないかなと思います。

インタビューで見えた「やすもと醤油の強さ」

 インタビューを通して、やすもと醤油のたくさんの魅力を伺うことが出来ました。

 バズりというのは、担当者の方が「今回のバズりは宝くじに当たったようなものだと思っていて・・・」と言われているように、なかなか狙って出来るものではありませんし、再現も難しいものです。

 ここでは、インタビューや調査で分かったバズり以外の「やすもと醤油の強さ」に目を向けてみたいと思います。

 まず、やすもと醤油で際立っているのは製品力の強さです。

  “製品”とは、「ドレッシングの中身」だけでなく、パッケージやデザイン、ブランド名などまで含んだものを言います。

 やすもと醤油では、自社開発した液体燻製技術という技術をもとに、燻製醤油や燻製ドレッシングといった独自性の高い製品の核、つまり「ボトルの中身」を作り出しました。

 ツイッター上を見てみると、「中身」に対する好意的な感想が溢れており、品質の高さが伺えます。

 また、他にないボトルの形、刺さるキャッチコピー、印象的なパッケージデザインなど、独自性の高いビジュアルが見た人の視線を引きつけます。

 このように中身も外側も独自性の高い製品の存在を、今回の「バズり」が多くのツイッターユーザーに広めました。
 そして製品を知ったユーザーは、ネットショップがあることによりオンラインでスムーズに購入することが出来ました。(結果、現在は見事に売り切れ中)

 もともとの製品力の強さと、コロナを機に行ったデジタルの強化によって、このような一連の流れが出来たのです。

マーケティングミックス

 今回、多くの人に製品の存在を知らしめたきっかけはツイッターでの「バズり」ですが、このバズりを活かすことが出来たのは、もともとの優れた製品力とそれを購入しやすくしていたネットショップの存在だったのです。

 そしてこのような形を作ることが出来た背景に、やすもと醤油が「面白い調味料」という明確なモットーで社内が団結していることや、仲がいいながらも「会議ではバチバチやり合う」という社内の風土があったことがわかりました。

さいごに

 取材を通して、やすもと醤油は少ない社員数ながらも実直に業務に向き合ってきた企業であることが分かりました。

 今回改めて実感したのは、デジタルを導入することでのビジネスへの影響の強さと、その根底にある製品力の重要性です。

 コロナを受けて重要性が加速したデジタル活用。

 出来る範囲でトライアンドエラーを繰り返しながら、少しでも多くの企業が“よりよい方向“に向かっていくことを切に願います。

 と同時に、情報があふれる今だからこそ、情報の裏側にある“製品力”という根幹の強さも大切にしていきたいものです。

デジタルツールを使って会社や製品の魅力を届けたい方は、こちらのコンテンツがおススメです。

デジタルマーケティングで知っておくべき「いま求められていること」

おまけ:実際に味わってみた

 どうしてもドレッシングを味わいたい!と思い、福岡ではスーパー「ハローデイ」に卸されているとのことだったので、すぐさま店舗へ。

 幸い「くんせいナッツドレッシング」「くんせい玉ねぎドレッシング」「お米ドレッシング」があったので購入。

 そして色んなものにかけてみました。

※写真はごく一部です

 個人的なヒットは「ナッツドレッシングをチーズにかける」でした。(思いっきりお酒のアテ)

美味しさが伝わらない画像・・・

 普通のチーズがスモークチーズに変身!口の中に入れると燻製の風味がふわっと広がり、噛むと感じるナッツの食感。

 やすもと醤油の「燻製シリーズ」は、何にかけてもその食べ物を燻製食品に変身させてくれます。

 最後に食レポになっちゃいましたが、やすもと醤油の商品は、人に魅力を教えたくなる素敵な商品でした。

 突然の取材依頼にもかかわらず、快く引き受けて頂いたやすもと醤油さん、本当に有難うございました!

 最後までお読み頂き有難うございました!
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